ものの値段の決め方

ものの値段。つまり商品の価格の決め方ってどうやるのでしょうか?

他に同じような商品がある場合は、そちらを参考にできます。しかし、新しい商品となるとすごく悩みます。

 

価格決定の難しさ

私も、藍染めの肌着を販売するにあたってすごく悩みました。結果として1年半ほど悩みました。

もちろん「材料費があって工賃があって諸経費があって、だから何円。」となるわけですが、それだけで決めて、売れるかと言うとそうではありません。

それに材料費に注目すれば、藍染めの場合は相手が自然物なので不確定要素が多くあります。染料にもその年によって、色素をたくさん含むものと、そうでないものがあるのです。加えて、発酵の度合いが異なることによる藍甕の持続期間の問題などもあるので、なおさら価格の決定が難しくなります。

 

天然藍染を安価で販売したい

私は、天然の藍染めが高価であることは分かっていましたし、それだけでは商売は難しいよ。と多数の藍染職人から聞いておりました。

それでも、天然藍染にこだわり、それを可能な限り安価にすることで、とにかく使ってもらうことが大切。そうすれば天然藍染の良さに気づいてもらえる、と考えていました。伝統工芸品としてではなく、日用品として今の時代に普通に存在するようにしたい。

だからとにかく安価で販売してみようと考えていました。

 

商品価格の決め方は2通りある

さて、本題に戻って、商品の価格の決め方には大きく2通りのやり方があると考えています。

一つは先ほど言ったような、原価から考えるやり方。積み上げ方式ですね。

二つ目は販売価格を先に決めてしまって、そこから逆算してコストを切り詰めるやり方です。このタオルなら、いくらぐらいがいい。とお客様の立場に立って、欲しくなる価格設定。高すぎるとなかなか購入には至りませんから、できる限り安価にします。私もあまりに高ければ買うのを躊躇しますから。

 

コストを切り詰めていく努力

そうして導き出すと「材料費はいくら以内、工賃(かけれる時間)はどのくらい、諸経費はいくら以内に収めて。」となるわけです。このやり方でコストを切り詰めていくのを企業努力と言うのでしょうか。世の中を見渡せば、私たちはこの企業努力の恩恵にあずかっていることが分かります。100円のお菓子一つとってみても、自分で作るとなればそのコストは10倍にもなるかもしれません。高度に分業化した現代では当たり前の努力なんですね。

だから私もこの方法で考えました。どうやれば材料費を下げられるのか。工賃を下げられるのか。何度も何度もシミュレーションしました。それで1年半もの時間がかかりました。

藍染めの場合、それは技術を磨くこともおおきなウエイトを占めていることが分かったので、その時間も必要でした。

 

本質を失うまでコストカットをするべきではない

そうした結果、今のこの価格に落ち着きました。現在、持ち込み染めでは1gあたり30円いただいております。120gのTシャツなら3600円になりますので、まだまだ高い買い物かも知れません、染めるだけなのにって思うかも知れません。合成染料なら、もっとずっと安い価格で済みます。

ただ、これ以上下げようとすればそれは、薬品や化学染料に手を出すことだと分かりました。天然藍を使う以上、薬品を使わず自然な発酵の形で使う以上、下げられない壁があります。

価格を下げるという企業努力が薬品を使う、合成藍を使うという選択肢になってしまっては、全く意味がありません。当工房にとっては藍染の本質から外れてしまいます。

 

価格に見合うだけの商品を考えるということ

そこで、最近は考えを改めました。本質を失うまで価格を下げるのではなく、価格に見合うだけの商品を考えるべきだ。天然藍染の本質を外れないためには最低限のコストは必要となる。だけど他には代えられない良さを持っているのだから、その良さを有効に利用できる物だけを染める。これが当工房の考え方です。

天然藍の良さを有効に利用できる物とは、やっぱり「肌に触れるもの」だと思っています。