染色は色だけではなく機能を付与する

こんにちは!藍染工房タデアイ代表の山口且真(かつま)と申します。今日は染色による機能の付与についてお伝えしたいと思います。

「染色?それ色がつくだけでしょ?」は誤解です。

染色と言えば、デザインをして、色を付けてという、芸術品的なイメージが最初に浮かびますよね。

だからそういうものに興味がない方々にとっては、見出しのような感想になります。かつては私もこの一人でした。しかしこの考え方、少しもったいないかもしれません。

今のように化学染料が普及する前、1900年頃より前の時代では、染色には色以外の意味もあり、一般的にも認知されていました。

藍染めの場合、冷えに良いとされたり、汗疹にならないことや、また藍染めの布で包むと虫に喰われないなど、さまざまな効能の伝承が残されています。

今日は染色に対して「それ何か役に立つの?」という感想を持つ方にこそ、読んでいただきたくて、この記事を書きました。

染色により付与される“機能”という恩恵

染色により得られるものは、実は色だけではありません。そして私が染色をしている目的は、この色以外の部分が大きいです。

染色と言ったら、一般的には布などに色を付けることです。辞書で引いても『布・糸などに染料や色素をしみ込ませて着色すること。』などとあります。

なのですが、それは表面的な部分であって、染色の全体像を表してはいません。染色をすると内面的にも変化があります。それは機能の付与です。

植物が持つ“生存のための能力”をいただく

植物たちは、生き残るために、様々な能力を身に付けています。

例えば、虫に食べられないように、虫よけの成分を持っていたり、病原菌などに負けないように、抗菌物質を作り出したりしています。だから道端に生えている雑草は、農薬などをまかなくても、手をかけなくても、丈夫にたくましく育っているんですね。

今のように救急セットなんて無い時代の人々は、傷を負ってしまったとき、植物の中から傷に効き目のあるものを見つけ出し、そのしぼり汁等で傷の手当てをしていました。これは植物の持つ、消炎作用や収斂作用、抗菌作用等を利用していたのだと考えられます。これら傷に効き目のある草を薬草と呼んだりします。

そこから発展して、それを布に染み込ませて服として着ようという発想があったのだと思われます自分の体を外敵から守るために、おそらく現代人よりずっと必死だった古代の人々にとって、服への染色は、色を付けるという意味か、それ以上の意味が込められていたのでしょう。

実際に、染色した布に機能が付与された証明が科学的に次々と明らかになっています。染色とは、色以外にも機能という恩恵を受けられるわけですね。

上記のことから、染色とは色を付けるだけではなく植物が持つ生存のための能力をいただく行為でもあると言えそうです。

あなたの身体を癒す“機能”のいろいろ

染料または染物には以下のように様々な働きがあります。

  • 抗菌作用
  • 収斂(しゅうれん)作用
  • 浄血作用
  • 角化作用
  • 紫外線吸収作用
  • 耐火性の向上
  • 保温効果 などなど

このほか、生地が丈夫になるなど、繊維の特性を変化させる働きもあります。

これらのうちいくつかをご紹介します。

抗菌作用 【雑菌の繁殖やニオイの発生を抑えるなど】

植物染料による代表的な機能のひとつですね。

この抗菌作用により、布自体の衛生環境が保たれるほか、それを身に着ける人の肌にも良い影響をもたらす可能性があります。藍染めの肌着を身に着けているとあせもになりにくいと言われるのは、この抗菌作用の恩恵かもしれません。また、汗をかいても嫌なニオイが発生しないとおっしゃる方が多いです。

藍染め以外にも、様々な染料で抗菌作用が確認されています。大なり小なりの差はありますが、ほぼすべての植物が抗菌作用を持っていると言っても過言ではありません。

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布に機能が染め付くメカニズム

収斂(しゅうれん)作用 【止血・鎮痛・防腐など】

収斂作用とは、組織や血管を縮める作用であり、止血・鎮痛・防腐などの効果があるとされています。

これは藍染めのお話ですが、鎌倉時代の武士たちは、鎧の下に藍染めの衣類を身に着けていたようです。これは、藍染めが止血・消炎に優れ、矢傷に効果的だったからと言われています。

また、藍染めの色名として「搗色(かちいろ)」(褐色、勝色とも書きます)がありますが、名前が“勝ち”に通じるということで縁起がよく、武士たちに大変喜ばれたようですが、これも藍染めの効能という土台があったからこそではないかと考えます。

耐火性の向上

藍染めをすると燃えにくくなるようです。

化学的には、藍染めの主成分であるインディゴが難燃性の物質であり、それが藍染めのように繰り返し染め重ねる工程を経て、繊維をコーティングし、燃えにくくなるのではないかと考えられます。

江戸時代には、火消し装束として、藍染めの木綿が使われていました。

最後に

以上のことから、染色は色だけでなく機能を得る行為とも言えそうです。

現代において、身の回りにある衣類はすべて化学染料に代わってしまいました。化学染料は色を染め付けるだけで、染色の目的を一つ置き忘れているようです。

今日は染色の目的についてお話しさせていただきました。染色の元々の存在意義が色だけではなかったことを知っていただけたのなら幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。